【コラム】タクティカル・アーバニズム

東京大学公共政策大学院特任教授
辻田昌弘

本原稿は、日本不動産学会「日本不動産学会誌」Vol.30 No.2 (117) に掲載されたものです。

 規制はいったん施行されるとなかなか変更されないという硬直性を有するため、社会の変化に伴って規制が実態と合わなくなるという事態がしばしば生じる。こうしたミスマッチを解消するための手法として、地域や期間を限定して規制緩和を試行する「社会実験」や「特区制度」があるが、こうした行政主導の取り組みに対して、近年米国で注目されているのが「タクティカル・アーバニズム」と呼ばれる市民主導型の取り組みである。

 タクティカル・アーバニズム(戦術的都市計画)とは、市民の創意と行動によって、道路や公園などの身近な公共空間を市民にとって有益な空間へと小規模に改変する試みを通じて、公共空間の利用法や規制について市民と行政の双方が議論する契機としようというムーブメントの総称である。

 提唱者のMike Lydon & Anthony Garciaがその要諦を「長期的変化のための短期的アクション (short-term action for long-term change) 」と表現しているように、行政主導のマスタープランやゾーニングに基づく計画的・戦略的(ストラテジック)な従来型のまちづくりに対して、いわば「小さな成功体験」の「見える化」を積み重ねていくことで、市民主導で実践的・戦術的(タクティカル)にまちを変えていこうというものである。

 タクティカル・アーバニズムの具体例としては、1996年にポートランドで始まった、住宅街の交差点の路面をペイントする “Intersection Repair” や、2005年にサンフランシスコで始まった、車道上のコイン式パーキングロットを「時間借り」し、そこに芝生を敷きベンチを置いてその時間だけ公園(パーク)にしてしまう “Park(ing) Day” などが有名である。

 両者はいずれも規制のグレーゾーンを突いたアクションであり、行政当局は当初難色を示したそうだ。しかし、市民から高い評価を受けたことが追い風となって規制を見直す動きが進み、今日では逆に行政当局がこれらのアクションを制度として取り込んで、積極的に支援するに至っている。

 ところで、人口減少時代の我が国においては、今後多くの都市が縮小局面を迎えるが、都市の縮小は、その範囲が縮小するというよりもむしろ、都市の内部に小さな孔がぽつりぽつりとランダムに開いていく、いわゆる「スポンジ化」という現象を伴って進行するものと考えられる。

 しかし、従来型の計画的・戦略的な都市計画はそもそもこのような事態を想定していないため有効に対処することは難しく、現実問題としては、ランダムに開く小さな孔に対して、実践的・戦術的に、まさにひとつひとつパッチを当てるようにして対処していくしかないものと思われる。その意味でタクティカル・アーバニズムは、公共空間のみならず広く今後の我が国の都市政策を考える上でも示唆に富んだ概念なのではないだろうか。

 なお、余談ではあるが、ポートランドの “Intersection Repair” に携わった市民達はその後 “The City Repair Project” というNPOを立ち上げ、幅広くコミュニティ活動を展開しているそうだ。“City Repair” を直訳すると「まちを繕(つくろ)う」となるが、まさにスポンジの孔をふさいでいくようなイメージを彷彿とさせる。

 で、ここから先は言葉遊びとして聞き流していただきたいが、従来よく使われてきた「まちづくり」という言葉よりも、これからはむしろ「まちづくろい」と言ったほうが、縮小局面の我が国の都市にはふさわしいのではないかと思いつき、その語呂の良さに独り悦に入っている次第である。