「新しい公共空間」がもたらす官と民、国と地方の関係の変容

東京大学公共政策大学院特任教授
辻田昌弘

本稿は、常陽地域研究センター「JOYO ARC」2016年5月号に掲載されたものです。

はじめに〜「新しい公共空間」

 高度成長期の人口急増に伴って大量に整備された公共施設の老朽化が進む中、各自治体は今後の人口構成の変化や財政状況の見通しを踏まえながら、公共施設の再編・統廃合・長寿命化などを総合的・計画的に管理するいわゆる「公共施設マネジメント」に取り組み始めている。

 公共施設マネジメントは総じて言えばコスト削減に向けた取り組みであるが、一方で、公共施設を含む自治体保有の不動産(公的不動産)を積極的に利活用して収益を得ようという動きも出始めている。一例を挙げれば、道路や河川敷、公園など従来は民間事業者による使用が制限されていた公的不動産について、規制緩和によって民間事業者が事業を営むことができるようになりつつある。

 道路については、2011年10月の都市再生特別措置法等の改正によって、道路上に食事施設等の設置が可能となった。これを受けて東京都新宿区(新宿三丁目モア4番街)では道路上に民間事業者(新宿駅前商店街振興組合)によるオープンカフェが設置された(図1)。

図1
公道上のオープンカフェ(東京都新宿区)

 また河川敷については、2011年3月の河川敷地占用許可準則の改正によって、民間事業者が河川敷を占用使用することが可能になった。大阪市の土佐堀川ではこの規制緩和を利用して民間事業者が河川敷にテラス(川床;かわゆか)を設置している。現在11店に増えた川床は「北浜テラス」と名付けられ、土佐堀川の景観を大きく変えつつある(図2)。

図2
北浜テラスに見る「新しい公共空間」

 公園についても、2015年9月の国家戦略特別区域法の改正によって都市公園内での保育所等の設置が解禁され、第一弾として東京都荒川区の都立汐入公園に民設民営の保育所が開設されることとなった。

 こうした規制緩和による公的不動産の利活用によって、道路、河川、公園の管理者である自治体は、これまではなんら収益を生まなかったこれらの公的不動産から占用使用料収入を得ることができるようになった(いわゆる「稼ぐ不動産」化)。さらに、こうした公的不動産の利活用によって、市民の利便性の向上やにぎわいの創出を通じた周辺エリアの魅力の向上という効果も期待される。

 さて、こうした動きを土地利用の観点から見ると、官有地でありながら民間が占用使用することができるという、一種の「コモンスペース」とでも呼ぶべき新たな空間が創出されたとみることができる(図2)。こうした半官・半民的な空間は近年「新しい公共空間」とも呼ばれ、企業や市民との協働による公共空間の新しい利活用の手法として注目を集めている。こうした空間は活用のしかた次第では、行政サイドからみれば収益を上げつつエリアの活性化を図ることができる一方で、民間事業者には新たな事業機会となり、利用者となる市民にとっては利便性が向上するというwin-win関係の形成が期待できるからだ。

公民連携の課題

 このような企業や市民との協働による公共空間の活用は、広い意味でのPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ;公民連携)に含めることができるが、我が国におけるPPPの現状には課題が少なくない。典型的にはいわゆる「官の決定権問題」が挙げられる。

 根本(2011)によれば「官の決定権問題」とは、PPP事業の枠組みに関する意思決定において、行政の側が一方的にPPP事業の内容、時期、規模、方法などを決定することであり、これにより、市民の意向が充分に反映されない、あるいは民間の能力が充分に活かされないままに事業が実施されるケースが少なくない。「パートナーシップ」という名前とは裏腹に、官民が対等な関係に立っているとは言いがたく、そのためVFM(バリュー・フォー・マネー;費用対効果)を最大化するというPPP本来の目的が達成されないという弊害が生じる可能性が高いとされる。

 この問題は、先に述べたような「新しい公共空間」の利活用に際しても同様に発生する可能性がある。なぜなら、これまで道路や河川敷、公園などの公共空間の管理は行政に一元的に委ねられていたため、行政の側からすればそれを民間に「使わせてやる」という意識が先に立ち、一方の民間の側にはこれまで行政が取り仕切っていたものを「使わせてもらう」という意識が働くからだ。

 しかし、改めて言うまでもないことだが、公共空間はそもそも市民のものであるはずだ。これらのいわば市民の共有財産について、市民はその維持管理を行政に委託しているに過ぎないと見ることもできよう。そのように考えれば、「新しい公共空間」の利活用にあたっては、まずは従来のような行政の「お上意識」と民間の「依存体質」からそれぞれが脱却する必要がある。従来のような官民の二項対立的な関係のままでは、行政と民間の間に生じつつある「新しい公共空間」を有効に活用することは難しいということを、まずは相互に認識しなければならない。

行政と民間の新しい関係

 もちろん、行政と民間はそれぞれに立場が異なるということには留意が必要だ。民間の側は、利用者のニーズを踏まえつつ効率的・効果的に公共空間を利用することで、収益の最大化を図ることを当然とする。一方、行政の側は公平性・中立性あるいは安全性といった観点から、公共空間の利用に一定の制限を加えたいと考える。

 しかし、「新しい公共空間」の利活用において行政と民間のそれぞれがメリットを享受できるwin-win関係を構築するためには、両者はこうした立場の違いを乗り越えていかなければならない。そのためには、行政と民間の両者が、従来のような上下の関係ではなく対等な関係に立って、双方の立場の違いを相互に理解した上で、共通のゴールを目指して着地点を模索しつつ協働していくことが求められる。

 これまで、行政はもっぱら公平性や安全性といった観点から、公共空間の利活用について「規制」という名の一定の制限を課してきた。しかし、行政と民間が対等な立場で協働する、まさに真の意味での「パートナーシップ」が構築されるならば、そうした一方的な「規制」に代わって、行政と民間の間で合意された約束事である「ルール」が、「新しい公共空間」を律することになるだろう。

国と地方の新しい関係

 「新しい公共空間」を巡るこのような協働は個々の公共空間ごとに行われることが多いため、協働における行政側の直接的な当事者は自治体となることが多い。では、このとき自治体と国との関係はどのようなものになるだろうか。

 これまで、公共空間の整備は基本的な施策を国(中央省庁)が立案し、国による規制と補助金等によるコントロールの下で自治体が施策を実行して市民に供用するというのが基本的なスタイルであった。例えば都市公園で言えば、都市公園法や同法施行令など国が定めた都市公園の設置や管理に関わる基準に沿って、各自治体が国から補助金を受けて都市公園整備事業を実施してきた。

 これに対して「新しい公共空間」においては、住民や企業がその利活用の企画立案の中心となり、自治体は彼らとの共創・協働の下で施策を決定する。事業の実施も基本的には民間企業等が主体となって行う。このとき国の役割は、規制緩和の実施などによってこうした協働をスムーズに実施できるようサポートすることがメインとなる。つまり、従来のスタイルとは事業の流れが全く逆転するのである。

図3
市民・企業 – 自治体 – 国 の関係の変化

 これを模式化したのが図3であるが、この模式図は、経営学における「ピラミッド型の組織図」と「逆ピラミッド型の組織図」を念頭に置いて作成したものだ。左の「ピラミッド型の組織図」は製造業によく見られるもので、基本的には中央集権・上意下達で、同種の製品を大量生産・大量供給するのに適した組織形態である。

 一方、右の「逆ピラミッド型の組織図」はサービス業によく見られるものである。サービスはその無形性、変動性、消滅性、同時性といった特性により、サービスが実際に提供される顧客接点である「現場」が最重要視される。そのため、サービス業の組織では「現場」に権限を極力委譲し、管理者や経営者は「現場」を後方から支援するような組織形態をとるのが望ましいとされている。

 これをアナロジーとして見れば、従来の「ピラミッド型」すなわち行政主導型の整備手法は、「国土の均衡ある発展」を旗印に、全国にハードを均一・大量に効率よく整備するという目的には非常に適した形態であったと言える。一方、ハード整備が一巡した後、市民・企業のニーズの高度化・多様化に対応して、現場(=自治体)レベルで地域特性に応じたきめの細かい対応が求められる「新しい公共空間」においては、「逆ピラミッド型」すなわち民間が主導して行政がそれをサポートするという型が適していると見ることができる。

ミズベリング・プロジェクトの挑戦

 このような「新しい公共空間」における市民・自治体・国の新たな関係を模索する試みとして注目されるのが、国土交通省水管理・国土保全局が推進する「ミズベリング・プロジェクト」である。このプロジェクトは「かつての賑わいを失ってしまった日本の水辺の新しい活用の可能性を創造していくプロジェクト」であり「水辺に興味を持つ市民や企業、そして行政が三位一体となって、水辺とまちが一体となった美しい景観と、新しい賑わいを生み出すムーブメントを次々と起こす取り組み」(ホームページより)であるが、およそ従来の中央省庁らしからぬ、非常にユニークな活動を多岐にわたって展開していることで注目される。

 中でも、市民・自治体・国の新たな関係という面で特筆されるのが「出張ミズベリング会議」である。これは、水辺を活用したいという意向のある地域に国土交通省職員を含む事務局スタッフが出向いて、当該エリアの市民・企業・自治体を交えたワークショップを実施するというものであり、これまでの2年間で40カ所以上の地域で開催されている。関係者が一堂に会し、中立的な立場の事務局スタッフがファシリテーションを行うことで、ともすれば利害が対立しがちな市民・企業と自治体との間で建設的な議論がスムーズに行われるようになるという。

 また、半年に一度の頻度で開催される全国規模のシンポジウム等のイベントや、フェイスブックなどソーシャルメディアの積極的な活用を通じて、全国各地のこうした「点」の動きをネットワーク化していくことで、相互の情報共有・交流が促され、また連帯感も醸成されていく(図4)。まさに「ムーブメントを次々と起こす取り組み」となっているのである。

 ミズベリングでは、水辺を利活用したいという市民や企業の強い思いが最初にあって、その思いに地域の自治体が呼応し、そうした連携・共創・協働の動きを国がサポートするという流れとなっている。まさに逆ピラミッド型の関係なのである。

図4
全国から600人以上が参加したミズベリング・プロジェクトのイベント
(2016年3月3日渋谷ヒカリエホール;写真提供/ミズベリング・プロジェクト)

地域版トライセクター・リーダーの必要性

 「新しい公共空間」が官と民の中間的・境界的領域に生じる新しい空間である以上、これを従来のような行政と民間の二項対立的な関係のままでマネジメントしていくことは難しい。ミズベリング・プロジェクトでは、事務局スタッフが現場に赴いて、行政(自治体)と民間(市民・企業)の間に介在することで、両者の関係を「対立」から「対話」へ、さらには「パートナーシップ」へと変化させていくという役割を果たしているが、このように行政と民間の間に立って両者の利害を調整し、両者の連携・共創・協働を促進させるようなコーディネーターの役割を担う機能・人材の必要性は、今後さらに増大するものと考えられる。

 図3で示したように、従来のピラミッド型(行政主導型)の場合には、全国の自治体は中央省庁が企画立案した施策を、ただ粛々と遂行していればそれでよかったが、これが逆ピラミッド型(民間主導型)に変わると、企画立案の現場は霞ヶ関からそれぞれの地域へと移り、各自治体は市民・企業との対話の中で個別具体に施策を作り上げていかなければならなくなる。

 しかし先にも述べたように、行政と民間にはそもそもの立場の違いがあり、加えて価値観も違えば普段使用するターム(言語・用語)さえも異なるため、一口に「対話」といってもそれをスムーズかつ建設的に進めることは、実際にはなかなか容易ではない。だからこそ、両者の立場や価値観の違いを理解し、異なるタームを通訳できるような人材が必要となるのである。そのようなコーディネート人材が行政と民間の対話を媒介して双方の利害を調整し、ベクトルを合わせる役割を果たすことで、施策の実現可能性は格段に高まるものと考えられる。

 ラブグローブ&トーマス(2013)は、さまざまな社会的課題の解決には政府・産業界・市民社会という三つの異なるセクターが力を合わせる必要があり、これらのセクター間の垣根を超えて、それぞれのセクターで働く人のニーズ、野心や志、インセンティブを汲み取り、彼らと同じ言葉で話すことができる人材が重要な役割を担うようになると指摘し、それを「トライセクター・リーダー」と呼ぶ。

 このような「地域版トライセクター・リーダー」とでもいうべき機能を果たせる人材は現状ではまだまだ少なく、一方でそうした人材へのニーズは今後全国各地で高まるものと考えられるため、その育成が急務となるが、既にそうした人材の育成に取り組み始めている事例がある。

 福岡県北九州市では、リノベーションの手法によって中心市街地の遊休不動産の活用を図る都市政策「小倉家守構想」を推進中だが、この構想の下で実際にまちづくりを担う人材を育成するために「リノベーションスクール」を開催している。同スクールは2011年以降10回にわたって継続して開催されているが、近年は地元九州のみならず全国から受講者が集まるようになり、修了生は累計で768人に達している。また、2013年からはスクールの全国展開も進められており、これまでに北九州市以外の14の都市でスクールが開催されている。

 同スクールは3〜4日間の合宿形式で、リノベーション事業の第一線で活躍する民間の専門家集団の指導の下、実在する遊休不動産を題材に事業プランを作成し、当該遊休不動産のオーナーにプレゼンテーションする(オーナーが提案を気に入れば実際に事業化に進む)というきわめて実践的なプログラムとなっている。

 なお、リノベーションそのものは個々の民間の不動産オーナーと民間の事業者との間で進められる私的経済行為であり、北九州市はリノベーションに関わる許認可手続き等のワンストップ化やオーナーが資金調達しやすい仕組みを作るなど、後方からのサポート役に徹している。リノベーションスクールについても、カリキュラムの内容・手法等については民間事業者に一任されており、受講者も副教材費・宿泊費・交通費等を自己負担して参加する。

 このように、「小倉家守構想」それ自体もまた、民間が主導し行政がサポートするという、これまでにない新しいスタイルの取り組みなのである。

おわりに〜小さく産んで大きく拡げる

 「ミズベリング・プロジェクト」や「小倉家守構想」に共通するのは、ひとつひとつは小さな動きを同時多発的に動かすということだ。

 ハードの整備が一巡し、しかもその老朽化が進む今日、財政制約の中で高度化・多様化する市民や企業のニーズに応えていくためには、民間の知恵を取り込みながら既にあるハードをどう上手に使いこなしていくかという創意工夫が求められる。そして、地域の実情に応じた多様なニーズへのきめ細かな対応ということになると、個々の事業のスケールは必然的に小さなものとなる。

 「スケールメリット」という言葉があるように、これまでは「大きいことはいいことだ」と一般的に考えられてきた。しかし、小さいことにもさまざまなメリットがある。倉成(2015)はこうした「小さいことのスケールメリット」を「スモールメリット」と呼ぶが、スケールが小さいプロジェクトは省資金で合意形成も容易なのですぐに始められる。リスクも小さいため新しいことを試しやすいし、失敗しても損失が小さく、うまくいかなければすぐに止められる。小さいからこそ多様なニーズにきめ細かく対応できるし、事業環境の変化にも柔軟な対応が可能だ。そしてなにより、効果がすぐに目に見えるというメリットがある。

 一方、従来考えられていた小さいことのデメリットについては、今日ではインターネットやソーシャルメディア等を活用することによって相当程度カバーすることが可能になっている。ひとつひとつは小さな事例であっても、それらがソーシャルメディアを通じて拡散され共有されることで、短時間で認知が高まり、相互学習が進む。「小さく産んで大きく育てる」とよく言われるが、今日求められているのは「大きく育てる」ことよりもむしろ、小さなスケールのものを広範囲に拡散させてたくさんの動きを起こさせる、つまり「大きく拡げる」ことなのかもしれない。

 公共空間は「作る時代」から「使いこなす時代」へとそのステージを移行しつつある。そして使いこなしのアイデアは、使い手である市民やビジネス感覚を持った企業に聞くのが一番だ。自治体は彼ら市民や企業の知恵と能力を引き出し、国がそれを後方から支援する…そんな民間主導・地域主導の新しいまちづくりのスタイルがいま動き始めている。こうした動きがさらに活発なものになって、全国各地に魅力と活気に満ちた「新しい公共空間」が次々に出現していくことを期待したい。

参考文献

  • 馬場正尊+OpenA(2015)『PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた』学芸出版社
  • 根本祐二(2011)「PPP研究の枠組みについての考察(2)」東洋大学PPP研究センター紀要2号
  • ミズベリング・プロジェクト
  • ニック・ラブグローブ&マシュー・トーマス(2013)「トライセクター・リーダー:社会問題を解決する新たなキャリア」ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス2014年2月号
  • リノベーションスクール
  • 倉成英俊(2015)「「小」の価値に注目する スモールメリット」Forbes JAPAN 2015年8月号